大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 昭和36年(ネ)383号 判決

控訴人 原告 東山平和協同農園組合

訴訟代理人 花村美樹 外二名

被控訴人 被告 名古屋市

訴訟代理人 鈴木匡 外一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し原判決別紙目録記載のA地区に植えた桜苗木六七七本、B地区に植えたイチヨウ苗木五六本及び桜苗木一七六本をそれぞれ撤去してA地区約一二、〇〇〇坪、B地区一、四九二坪の土地を返還すべし。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とするとの判決を求めた。

被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張並びに立証関係は、左に立証関係を附加する外、原判決事実摘示のとおりであるから之を引用する。

(立証関係)

控訴代理人は甲第二号証を同号証の一と改めた上、同号証二、三を提出し、当審証人西野滝三郎、岩沢周一、神谷健次、湯本蔵三郎、宮部正雄、林田忠夫の各証言を援用した。

被控訴代理人は甲第二号証の二、三の成立を認めた。

理由

一、控訴人の組合は、民訴四六条に定める法人に非ざる社団で代表者の定めあるものに該当し、当事者能力を有することは原審の見解のとおりである。

二、しかして本件は、控訴人において被控訴人が昭和三十五年三月二十九日及び翌三十日の両日に亘り本件土地に植樹して控訴人の本件土地に対する占有を奪つたから占有権に基き本件土地の返還を求めるものであることは明かであるところ、被控訴人は控訴人に対する原状回復の代執行によつて前に被控訴人が占有していた本件土地の占有を回復したものであること、及び右行政代執行は、単に控訴人がなした植樹の除去に止らず控訴人の本件土地に対する占有状態の除去をも含むものであることは当審の判断も原判示のとおりであるから之を引用する。

三、しかるところ強制執行によつて物の占有を解かれた者の占有回収の訴の許否につき、昭和三十八年一月二十五日最高裁判所は、「強制執行によつて物の占有を解かれた場合には、右執行行為が著しく違法性を帯び、外観上も私人の私力行使と同視できるようなときを除いて、占有回収の訴によつてその物の返還を請求することは許されない」と判示し、当審も右見解に賛同する。

しかして本件は強制執行によつて占有を解かれた場合ではないが、強制執行の場合には執行法上の不服申立方法や実体法上の権利に基く請求をなし得ると同様に、行政代執行についても訴願の提起、異議の申立の手段が認められ且つ代執行に関し裁判所に行政訴訟を提起する訴権のあることも明かにされているから、行政代執行によつて物の占有を解かれた場合も原則として占有回収の訴によつてその物の返還を請求することは許されないものと解する。

四、ひるがえつて本件代執行を観るに、右行為が著しく違法性を帯び、外観上も私人の私力行使と同視できるような瑕疵は認められないから、本件占有回収の請求は理由がないものとして之を棄却すべきである。

五、よつて右と同じ判断をした原判決は相当であつて本件控訴は理由がないから之を棄却すべく、控訴費用の負担につき民訴八九条に則つて主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 坂本収二 裁判官 西川力一 裁判官 渡辺門偉男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例